クールな王太子は一途に愛を待ち続ける~夢灯りに咲く紫苑~

◇◇◇

「お嬢様……お嬢様、起きてください。そろそろお支度の時間です」

 声をかけ、寝ていた身体を揺り動かしたのは使用人の千代(ちよ)だ。
 彼女は今年で十五歳。伯爵の地位を賜っているこの菊地(きくち)家で、当主・江蔵(えぞう)の娘である桜和の小間使いをしている。

「頭のてっぺんからつま先まで、すべて手入れするように奥様から言われていますので」
「そんな大げさな。野宮家の宴に招かれているだけでしょう」

 呑気な声を出した桜和は身体を起こし、口を隠しながらあくびをした。
 今日は公爵家である野宮家で社交界が催されることになっており、菊地家も桜和とその両親の三人が招待されている。

「なにか隙があれば野宮家の奥様から嫌味を言われるかもしれない、とうちの奥様が仰っていましたよ?」

 野宮家の嫡男である煌太郎と桜和は、つい先日結納を済ませて婚約をした仲だ。
 半年後の春にふたりの結婚式がおこなわれる予定になっており、野宮家と菊地家は姻戚関係を結ぶことになる。

「煌太郎さんのお母様は厳しいものね。それに、私は嫌われていそうだし」

 自虐的に苦笑いを浮かべる桜和を見て、千代は眉を八の字にして悲しそうな顔をした。