クールな王太子は一途に愛を待ち続ける~夢灯りに咲く紫苑~

「グラスの中身を銀製の器に移し替えればすぐにわかります」

 オスカーは立ち上がって右手でワイングラスを持ち、左手に持った銀の器にワインを移した。
 手の上でぐるぐると器の中身を回してしばし待つと、器に異変が現れる。

「私は危うく死ぬところでした」

 やっぱりかとうなずいたオスカーは、近づいてきたブノワ王の侍従にそれを預ける。

「器が黒く変色しております。ヒ素のような毒でなければこんな色にはなりません」

 ヒ素は無色で無味無臭。飲み物や食事に入れられても見分けはつかない。
 しかしヒ素には不純物として硫黄が含まれており、銀と反応すると黒く変色させる特色がある。

「……まさか。余と王妃のワインも調べよ」

 顔が真っ青になったのはその場にいた給仕係の女性たちだ。
 侍従の指示であわてて銀の器を用意し、毒が入っていないか確認したが、ほかの王族たちのワインにはなにもおかしな点は見つからなかった。

「どうやら狙われたのは私だけのようですね。ワインボトルにではなく、グラスのほうに細工されたかと」

 焦りの素振りなど微塵も見せず、オスカーは平然とそう言い切った。
 ブノワ王は顔をしかめ、その隣にいる王妃は恐ろしさから身体をブルブルと震わせている。