『……景、一緒に映画をみよう? ずっと練習ばっかりだったから、最近の全然知らないでしょ』
『景、これ家で作ってきたんだよ。形は上手にできなかったけどね、味はいいと思うから。パウンドケーキ、一緒に食べよう』
『脚が痛むの? そうだよね、痛いよね。貰った痛み止めの薬、取ってくる?』
私はとにかく、景のそばにいた。
そうでもしないと、景は一人で抱え込むような気がしたから。
そんな日が続いた、ある日。
『……景!? どうしたの!?』
景の家のリビングで、お菓子を食べながら映画を観ていたときのこと。
横を見ると、景は涙を流したまま静かに画面を見つめていた。
『まだ感動するところじゃないよ? というか、泣く要素ないコメディのはずなんだけど……』
慌てて映画の詳細を確認する私。
そもそも一緒に観ていたんだから、その映画が十秒に一回は笑えるシーンが入るものだと知っている。
『景、ほらこれ使って!』
私が慌ててティッシュを渡すと、景はテレビ画面を見ながらぽつりと言った。
『ありがとう、杏子……。杏子がそばにいて、本当によかった』
涙声に胸が締めつけられる。
――怪我をしてから今まで、ずっとそばにいてくれてありがとう。
私の顔を見ながら感謝を伝えた景の顔には、久しぶりの笑みが浮かんでいて。
好きな人の支えになれていた。
こんな私でも励ますことができていたということに、心の底からほっとした。
景が、元気になりますように。
そればかりを願っていた。
少しずつ景が元気になっていって、学校でも普通に笑うようになった頃。
私は家族の仕事の関係で、アメリカに引っ越さないといけなくなった。
いつ戻れるのかもわからない。
でも、中学生だった私にはついて行く以外の選択がなくて、中学二年の夏休み前に日本を離れることになった。
アメリカに行く前、私は景に告白するつもりでいた。
せめて自分の気持ちを伝えてから日本を出たかったから。
『ねえ、見て。桜葉くんと、二組の佐藤さん。めっちゃお似合いじゃない?』
いつ景に話そう。
教室にいても頭ではそんなことばかりを考えていたとき、廊下で聞こえた話し声に私は現実を思い知る。
『付き合ったりしないのかなぁ。やっぱりイケメンの隣は、あれぐらいカワイイ子じゃないと釣り合わないよねー』
『そうそう、むしろ微妙な子が並んでたら納得いかないわ』
……お似合い、釣り合わない。
佐藤さんという子は、確かに可愛かった。
性格も明るくて、色白で、髪がふわふわで、細くて。
誰がどう見ても納得するほど、景の隣に立っても不自然じゃなかった。
でも、私は……?
髪も、顔も、体型も。
何ひとつ、私は自信がない。



