『杏、俺……またサッカーを始めることにしたんだ』
『えっ、サッカーを?』
スマホから聞こえる景の声に、私は驚きを隠せなかった。
脚を怪我してから、サッカーを遠ざけていた景が、そんなことを言い出すなんて。
驚いたけど、それよりも嬉しさのほうが何倍もあった。
『そう……そうなんだ。うん、景ならきっと大丈夫だよ』
『まだ仮入部だし、ゆるいサッカー部だけど。ありがとな、杏』
どこか吹っ切れたような景の声。
少しいつもと違うような気がして、首を傾げる。
『でも、どうして始めようと思ったの?』
『え……?』
『きっかけとか、なにかあったのかなって』
『あー……まあ、そうだな』
なんだか言いづらそうで、歯切れの悪い照れたような声が珍しいと感じた。
特に深い意味もなかったし、景が頑張ろうと思えるきっかけがあったのなら、それに感謝したいくらい。
呑気にそんなことを思っていた。
『……俺も見習って、頑張らないとなって思ったんだ』
誰を、見習おうとしていたのか。
このときの私には、まだわからなかった。
景の変化に胸がざわつき始めたのは、それからすぐのことだった。
『……世話になったお礼に物とか、急に渡しても引かれないか?』
『それって、プレゼントってこと?』
『まあ、そんな感じ。杏だったらどういうのが喜ぶ? その子の好きな物とかよくわからないし』
そのとき、嫌な予感が頭をよぎった。
その子って……それは、誰のこと?
『……杏?』
無言になってしまった私に、景の不思議そうな声が響く。
私は慌てて会話を繋げた。
『その、プレゼントしようとしている子は、景の学校の友達? 女の子、なんだよね』
『……友、達。そうだな、白田さんは友達かな』
景の言葉はまるで、景自身が自分に言い聞かせているように感じた。
『きゅ、急にプレゼントって言ってもな〜。私はその、白田さんって子知らないし。どんな子なの?』
『どんな……』
胸騒ぎはいつまでも止まらなかった。
初めて景の口から女の子の話題が出たからだろうか。
でも、それだけじゃない予感のようなものが確かにあって。
『いつも、頑張ってる子、だと思う』
電話越しでもわかる和らいだ空気。
この予感は、とてつもなく嫌なやつ。



