メルティ・エモーション



「ていうか灰慈くん、財布、ずっと無かったの?」

「うん。まあ、言っても半日くらいだけどな」

「そっか。わたしだったら財布がなかったら困るなー」

「一生無ければ困るけど、一日くらい無くても俺は平気かな」

灰慈くんはやっぱり大人だ。あたしであれば、焦って一日中探し回る可能性が高い。

「さて問題」

灰慈くんの声が真上から落っこちる。

「問題?」

見上げた。視線が重なる、ささやかな幸福。

「一日でも無いと困るものってなんだろうね」

一日でも……?

大人な灰慈くんが子どものようななぞなぞを作る。

「なにそれ」と、わたしが首を傾げると、「なんだろ」と、灰慈くんは甘やかに微笑むから、悩ましい。

「分かった。スマホだ」

「惜しいな」

「鍵とか?」

「鍵失くしても、ふみに渡した合鍵がある」

「じゃあ、食糧」

「一日であれば耐えれるね」

不正解を裏付けるように灰慈くんがにこりとする。情報の少ないクイズって正解が遠い。何を言っても間違いな気がして、つんと唇を尖らせた。

「むー……それって、わたしは知ってる?」

「知ってるよ」

灰慈くんの目が逸れた。わたしは毎回、その横顔に見蕩れてしまう。

「よく知ってる」

もう一度、深い部分で灰慈くんは頷いた。

よく知っているらしいけれど、なぞなぞは迷宮入りを極めたし、何をやっても灰慈くんは正解を教えてくれなかった。