灰慈くんの待ち人が男性じゃなくて女性だったのは驚いた。
ザラっとしたものが心臓から送り出された気がした。見なければいいのに見てしまう。
濃い口紅が似合う綺麗な女性と灰慈くんはその場で少し話すと会釈をして別れていた。女性が一度、振り返るのを見た。
そうして冒頭に戻る。しかし、灰慈くんが零す「怖さ」が何処に結びつくのかわたしは分からない。
「さっきの人、忘れ物届けてくれたんじゃなかったの?」
「届けてくれたよ。俺の財布」
「財布?」
「うん。昨日同期飲みだって言ったじゃん?でも、俺飲み会の時財布触ってないんだよね。飲み代は電子マネーで送金したし。なのに、財布忘れてたよって届けくれた」
「えっ、勝手に財布が出てったの?」
「だろ。怖いよな」
「灰慈くん、高校の頃もよく持ち物無くなってたし、幽霊に取り憑かれてるんじゃないの?それも、良くない方の幽霊」
まあ、幽霊の気持ちも分かるな。わたしがもし幽霊だとして、ゆらゆらと天国への旅行の旅路に灰慈くんを見つけたとすれば取り憑く自信がある。



