メルティ・エモーション

◝✩

「こわー……」

ある休日。

手作りのアップルパイが史上最強の出来栄えを記録したので、灰慈くんの家へお届けに来た。

お菓子が上手に焼けると楽しくなる。誰かにこの幸せをお裾分けしたくなる。

嘘。わたしはこんなにいい子じゃなくて、本当は、これを口実にして会う約束を作りたいだけ。

灰慈くんに連絡を入れると『ふみの家に食べに行く』って言ってくれたのだけど、灰慈くんのお家に行きたいっていう邪な考えを年中無休で頭の中に配置しているわたしは、『ふみ・デリバリーサービスが灰慈くんの家まで無料配達します!』と強引に言いつけた。

そうと決まれば、準備に取り掛かった。

フリルの可愛いブラウスと、ピンクのチェックが可愛いスカート、三つ編みを結ぶリボンをもうワンランクアップさせて、買ったばかりのベージュのニット帽にきめた。

ラッピングシートで包装して、常備している化粧箱にアップルパイを詰めると「いってきまあす!」と、ヒールをトントンと鳴らして家を出た。

徒歩15分。前回しり込みしたマンション。インターフォンを鳴らせば、王子様《灰慈くん》が出迎えてくれる。今日は出かける予定が無かったのだろう、髪の毛もセットされていなければ、服もスポーツブランドのパーカーとジャージ。休日の、在宅モードの灰慈くんも眼福だ。