腕に額を乗せて突っ伏すと、甘やかな香りがした。灰慈くんが選んでくれた香りだ。つい数時間前まで届いていた思い出が、突然小さくなったみたいに見えなくなってしまう。
「やだよー……そんなの、やだ……」
ぽたぽたと机にまんまるの涙が落ちる。すんと鼻を啜って涙を堪えていると、扉のノック音が聞こえた。この柔らかい音は、きっとママだ。
「ふみ」
ゴシゴシと涙の跡を擦り、はーい、と返事をすると、ママが顔を出しては目を丸くさせた。
「……あれ?どうしたの?」
「感動系の動画観てたら、涙が出ちゃっただけだよ。ママこそ、どうしたの?」
「そうだった、涙が一瞬で止まっちゃうかもね」
「どういうこと?」
「灰慈くんが来てるよ」
「え!?」
現金な涙は本当に一瞬で止まっちゃうと、大急ぎでリビングに降りた。



