メルティ・エモーション

「ふみ」

灰慈くんがわたしの名前を紡ぐ。鼓膜を甘やかすように優しくて、金平糖を溶かしたみたいな温度。この声がたまらなく好きだ。

「何かあった?」

いつになく優しい声がわたしを安心させる。甘やかそうとする。


───久遠寺は彼氏がいないまま大人になって、向こうは別の人と結婚でもしたらどうすんの?


だから余計に、青葉くんの言葉が涙腺を刺激するのは必然で。

「灰慈くん」

「うん」

「もしも、もしもの話だけどね?」

「もしもの話な」

「うん。もしも、だれかと結婚する時はすぐに教えて欲しい。私、祝福するのに時間が掛かるから、ちょっとずつお祝いする準備を整えるから。早めにお願いします」

「待て、なんでそんな話になってんの」

「可能性の話」

できれば、無い可能性が高いと嬉しい、といえば、あたしは酷い女らしく地獄行き決定でしょうか。

「分かった」

長い沈黙のあと、灰慈くんは静かに告げた。

「結婚する時は一番にふみに言うわ。じゃあね」

それは甘さの一切が取り払われた、無機質な声だった。