メルティ・エモーション


「(うう、今日も素敵だ……!)」

わたしの心臓はよくやっている。毎朝こんなにときめいて、動くのを辞めないのだから。

「ふふ、おはよう〜」

「さっき聞いた」

「挨拶したの忘れちゃった」

「じゃあ昨日寝落ちしたことも忘れた?」

見蕩れるのもわずか三秒、灰慈くんは短い罪状を読み上げるから、わたしの頭上にだけ雷が落ちる。


「え、わたし、通話中に寝落ちしちゃった!?」

「うん。寝てた」

仕方ないと思う。灰慈くんの声はお砂糖をまぶしたように甘くて優しい。これはわたしにとって、1つの弱点だ。大好きな声を聞いていれば、眠たくなってしまうのも許して欲しいの。

「うわあ、またやっちゃった……」

「最後のふみは寝言だった」

さらに、乙女的にNGワードを灰慈くんは告げる。
雷に打たれた上に彗星を落とされた気分だ。

「ご……後生なので記憶から抹消してください、お願いします、なんでもしますので!」

「やだね」

わたしよりずっと大人な灰慈くんは、子どもなわたしに買収されなかった。

ぷくっと頬に不満を込める。灰慈くんは涼しい顔で、わたしの不満を指でつついた。

「可愛い可愛い」

そんな簡単な言葉で不満が消えるわたしは愚かだ。

「じゃあ、昨日のわたし、記憶から消えた?」

「うん。まだあるかな」

あからさまに落ち込むと、灰慈くんの肩が揺れる。優しくて、大人な灰慈くんはたまに意地悪だ。だけど灰慈くんが楽しそうなので良いのだ。