「なにしてんの」
結果だけ伝えると、わたしは玄関から一歩も動かずに、靴さえ脱がずにぺたんと座り込んで、灰慈くんの帰りを待っていた。おかげで帰宅直後、わたしを確認した灰慈くんは怪訝な表情を浮かべた。これはいけない。
「灰慈くん!おかえりなさい」
とびきりの笑顔で迎える。これはわたしの使命だ。
「うん。部屋、入らないの」
……部屋、入って良かったんだ。
正解をひとつ、みつける。けれど、わかりませんでした、を言えないわたしは言い訳を考えた。
「えっと……実はわたしもいま到着したの!」
苦し紛れだけど、効果としては十分な言い訳だったはずだ。しかし、灰慈くんにはまったく届いていないらしく、「へえ」と、目を細めた彼はその場で屈むので、目線がおなじになった。近づいた距離にどきどきしていれば、灰慈くんはかたちの良い唇の端っこを、微かに吊り上げた。
「寄り道しないんじゃなかったの?」
「う……」
蠱惑的な笑顔に、怯むのは恋心。
嘘をついても良いことはひとつも無い。当たり前だ。
「ごめんなさい、本当は、どこで待ってれば良いか分かんなくて、ここで待ってたの」
しゅん、と萎れて失態を吐き出す。



