メルティ・エモーション



灰慈くんは、わたしの家から徒歩15分の場所で一人暮らしをしている。それから、じつは久遠寺ふみは灰慈くんのお部屋の合鍵を持っているのだ。合鍵に「ふみ」と名前を書いたので所有権はわたしにある。実際、灰慈くんの家には何度もお邪魔したことがあるのです。

しかしそれは灰慈くん在宅時に限定した話で、灰慈くん不在時に訪問する、という状況は、じつは初めてだったりする。

ということで、合鍵を使用するのももちろん初めて。

「おじゃま、しまー……す」

時間ぴったりに到着した灰慈くんのおうち。合鍵をつかって玄関の扉を開ける。灰慈くんの香りが閉じ込められたお部屋にどきどきしちゃう。同時に、わたしの身体を緊張感が支配する。

「(行くって言ったけど、言っちゃったけど、どこで待ってたらいいのかな)」

玄関で立ち尽くし、リビングにつながる扉をじっと見つめる。

灰慈くんのお部屋で待ってもいいの?
灰慈くん、いやな気持ちにならないかなあ……。
マンションの下で待つべき?
お部屋に行くって言ったから、それはちがうよね。

はてながわたしの思考回路を占領する。

俺の家に寄れる、ということは、マカロンを勝手に持ち帰って、という意味に取るべき?

正解が分からない。なにもかも。