灰慈くんはわたしに向け、手を伸ばした。一度、二度。首元に擦られた灰慈くんの手首。ふんわりと漂うのは灰慈くん愛用の香水の香りで、そこにわたしが塗ったチョコミントは一切関与していなかった。
そればかりかちょっとだけ、灰慈くんの香りが移ったような。
のろのろと視線をあげる。朝から意地悪な笑みを浴び、わたしのハートは融解寸前。
「ざまあみろ」
「……!」
子どもは大人しく負けるのです。
いつものバス停でバスを下り、灰慈くんを見送って学校へ向かう。と、一足先にわたしを見つけていたらしいりるちゃんが校門の近くで立ち止まり手を振っていた。普段りるちゃんとは一緒になることがほとんどないので、朝一番に友人を見つけたわたしは喜んで駆けつけた。
「りるちゃん、おはよ!」
「おはよ、おふみ。今日も王子と登校?」
「うん。今日も無事にたどり着きました」
「久しぶりに見たけど相変わらず美しいね、王子。雪平灰慈でしか得られない栄養素があるわ」
りるちゃんも惚れ惚れする。好きな人のことを褒められると嬉しい。それが灰慈くんならもっと嬉しい。



