彼は建物に近寄った。心細いわたしは、てくてくと連なってあるく。木箱の上を指さした天使さんはここに乗ってと言うので、素直にえいや!と乗った。
『話してるわけじゃないからね』
指で内緒の形を作った彼は、おもむろに近くの窓ガラスへ息をふきかけた。
どういういみだろう。
意味がわからずにその様子を見ていると、彼は指先でつう……と窓をなぞり始めた。
《もじ、かける?》
それは自分に向けられた“言葉”だと理解する。
灰慈くんと同じように、窓へふうっと息をふきかけて、指に文字を乗せた。
《かける》
《くまがすきなの?》
《すき》
たどたどしく指を動かすと、灰慈くんのその指は魔法みたいに、可愛いくまの絵を描いた。
「わあ、ぱぱよりじょうず!」
“天使さん”が“クマの絵が上手なおにいさん”へと変わった。消えてしまうのが勿体ないと思った。
きらきらの目を向けると、やさしく微笑んだ彼は、もういちど窓に息を吹きかけた。今度はうさぎ、犬、ケーキ。全部可愛くて、次は何を描いてくれるんだろうって、わくわくした。



