──『ふみちゃん』
そんなわたしの耳に優しく届いた声。だけどわたしは、声も出せずに、ちくちくの葉っぱを掴んで、木を揺らした。
『ここ?』
誰かがわたしを覗き込んだ。全体的に色素が薄く、淡い色をした桃花眼。
ふわふわの、金髪に近いベージュ色の髪の毛。絵本で見た、天使みたいな男の人だった。
知らない人だった。
『……だあれ?』
『灰慈。雪平灰慈。ここ、うちの敷地外だから、向こうに行こう』
ゆきひらはいじ、という天使さんの名前を幼いわたしは心に刻んだ。
天使さんがわたしに手を伸ばした。
でも、知らない人だ。知らない人についてっちゃだめ、話しちゃだめ、一緒にお風呂に入っちゃだめ、そんなふうに教えられていたから、たとえ目の前の人が天使でもだめだ。
あれ、天使だったら、いいの?
鬼や悪魔は怖いけれど、天使って怖くないよね?
『……どうしたの?』
そんなことをぐるぐると考えていたら、天使さんがわたしを覗き込んだ。
『……知らない人、はなしちゃだめ』
『ああ、そっか。でも、俺は知らない人じゃないよ』
『(ふみは知らない)』
ツンとしていると、天使さんは『振られちゃった』と困ったように笑い何かを閃いたように、わたしを手招きをするので慎重に近寄った。



