メルティ・エモーション



こんな軽いことでさえ大袈裟に悩むさまも、やはりこどもである。

「……ということで、抜き打ちがなくなるのもやっぱりやだから、灰慈くんで練習する。するって言うの、おかしいね。させて下さいって言うべき、なのかな?」

あれれ、と。ふみは考え込む。

論点が違う。ふみと俺では、相違点ばかりで、共通項は一つだけ。

常時必死な彼女を見て声を殺して軽く笑い「ん。わかった」と、答えた。

「ふふ、がんばるね!」

「(べつ、がんばんなくていーよ)」

言っても聞かない。

背伸びするなと、大人になろうとするなと。

俺の顔色を伺うくせに、いつだって俺の静止を振り切る女の子。

バスを降りたふみは、律儀にこちらを振り向く。さっさと学校に行けばいいのに、毎度のことバスが去るのを待つ。

目を向けてやると、ふみは嬉しそうに微笑み、ぶんぶんと大袈裟に手を振った。

おそらく、水族館や動物園でも、ふみは展示用の動物に向かって手を振るだろう。行ったことはないけれど、その様が目に浮かぶのが容易である。

手を振ることに飽きたふみは、その手で自身の口元を囲う。

" いってらっしゃい "

バスは走り始める。

面倒は省いて生きてきた。その方が楽だからだ。それなのに、ここまで構ってやるのも何故か。

誰に聞けば教えてくれるのか。