メルティ・エモーション

するとふみは目に見えて落ち込む。まつ毛は上を向いたまま、瞳はしゅんと俯いた。

正直で、無防備で、無垢で、素直で。

オトコって生き物をちっとも知らない、こどもなふみ。そのくせ、背伸びをしたがる危うさ。

くちびるにほんのりと乗ったその色も、一度でも舐めとれば懲りてやめるだろうか。

「(……絶対、してやんないけど)」

落ち込んだ顔を見るのにも飽きて、ふいに前を見れば、袖口を軽くつままれるので再び視線を落とす。

「灰慈くんは知らないと思うけど、あたしの夢って、灰慈くんのお嫁さんになることなんだよね」

「へえ、そうなんだ」

「ママもパパのネクタイ結んであげてるし、あたしも灰慈くんのネクタイ結んで、いってらっしゃいをするのが夢」

「おめでと」

「……え?」

「今日その夢、叶うんじゃないの?」

「あたし15歳だからまだ結婚できないよ?」

ふみは大真面目な顔だ。しかしそこじゃない。

「ネクタイ、結んだじゃん」

で、このあとふみは俺に行ってらっしゃい、言うだろ?を、こどもでもわかるように丁寧に説明してやると、ふみはあんぐりと口を開けた。

「ちがうよ!あれ、そうなの?いや、どう考えてもニュアンスがちがうと思います」