ふみの視線を通学路に向けてやると、ふみはようやく自分の立ち位置に気づいた様子だ。
「え、うそ。今日、ちょっとはやすぎない?全然灰慈くんと話せてないよ?信号が全部青だったとか、バス停で待っている人が全くいなかったとか、運転手さんが突然お腹が痛くなってちょっとスピード飛ばしちゃったとか、そういう事件でも起きた?」
「さあ、知らない」
今までの会話を取り戻すかのようにふみは大慌てでまくし立てる。しかし残念ながら、とりわけ面白い事件もなく、単純にふみが集中していた事実があるだけである。
「……どうしよ、ネクタイ、結び直す時間、」
「べつ、あとで自分でし直せば良いだけじゃん」
目に見えて落ち込むふみは、じゃあ、マイナスかな……、と、リュックを持ち直すから、ん、なにが?とわざととぼけてやると、ふみは落ちた視線を俺に戻した。その目はもう、決意に燃えていた。
「なんでもない。練習して、リベンジするね」
ふみはすぐに変えることが出来る。変わることが出来る。変化を恐れないことは、強さに直結すると思う。待ちわびた春に向かって芽吹いていく花のように、瑞々しい。
「なあ、ふみ」
「うん、なに?」
「練習なら俺で練習しなよね」
「灰慈くんを練習台になんて、そんなこと出来ないよ!」
「じゃあもう頼まないから、練習しなくていいよ」



