メルティ・エモーション

「じゃあこれから、朝はたまに一緒の時があったら、一緒に通学出来るね?」

「そうだね。たまにならそんなこともあるんじゃないの。ほら、もう学校着いた」

「……ほんとだ」

おかけで、緊張も間違える暇もなく、あっという間にバスは高校前にたどり着いた。

「ふみ、緊張は?」

灰慈くんがあたしを覗き込む。

入学式は先週末に執り行われた。おかげで土日はクラスラインが鳴り放題。通知の数はこれから起きる高校生活への期待値を物語り、胸がどんどんと音を鳴らして騒いだ。

だけどわたしは足踏みをして、飛び込むことができなかった。流れていく文字を目で追うだけ。

やっと押せたスタンプが精一杯の勇気だった。既読の数が伸びていくとほっと胸をなで下ろした。

でも、いまはどうだろう。

「ちっとも!」

好きな人が、わたしのことを見てくれている。わたしが放った何気ないひと言を掬ってくれる。

たったそれだけで、どんな大海原にで飛び込める気がする。

「ありがとう、灰慈くん」

「何もしてませんけど、どういたしまして」

なんの変哲のない朝だった。どこにでもありふれたバスの中だった。しかし、灰慈くんは国宝級の顔面からうっとりとした微笑みをくれるので、窓の外に降り注ぐ桜のように、キラッキラのエフェクトが灰慈くんの周りに舞い散った。

わたしとしてはそちらのほうが心臓に良くなくて、おかげで、緊張とか不安とか、風船に括りつけて、青い空の向こうに飛ばしてしまったの。