メルティ・エモーション



声をかけるのをためらいつつも、最後は話しかけてくれる優しい灰慈くんのことが、わたしは今日も好きだ。

「灰慈くん、もしかしてこのバス停つかってるの?」

「もしかしなくても、そうかな」

「うそ!バス停もおなじ、乗る時間もおなじって、これってもしかして運命じゃない?」

大袈裟、までは行かないけれど、けっこうな本気度を込めて言った。灰慈くんに、冗談を言った試しがないからだ。

「安い運命だな」

しかし、灰慈くんはまるで相手にしない。むしろ、笑いのツボに入ったらしく、綺麗な顔は愉快に涙袋を浮かせて、肩はくつくつと揺れている。

むー、だ。

「運命は、買えないのよ?こっちの運命は高いとか、あっちの運命は安いとか、そんな値札がついてるの、みたことないもん」

「俺の運命バーゲンセール中ですって言ったらどうすんの」

灰慈くんはわたしを舐めてるのか。


「もちろん、買います」

即座に挙手してアピールをすると「ほら見ろ」灰慈くんは再び面白そうに笑った。まんまと灰慈くんの手のひらの上である。

むむー、だ。