飽和な時間を、退屈な毎日を壊された人生のほうがずっと心地よいから、俺は何度だって彼女に人生を預けるだろう。
「だからこれくらいしないと、元が取れないんですよ。ふみが」
ふみと同じだけ時間を掛けるのは、俺がその分長生きするでもしない限り不可能だ。だから、ふみが想っている以上のことを継続してやり続けない限りだめだと思う。
彼女の両手がどんな季節も、毎年いっぱいの花束で埋め尽くされるように。
ださくても、かっこわるくても、笑われても、ふみが喜ぶならそれでいい。
久遠寺先生は静かに口を開く。
「俺はな、ふみが生まれた時からぼんやり思ってたことがあるんだよ」
「……何を?」
「もしも将来、ふみが結婚相手を紹介してくれる日が来るのであれば、相手は一人が良いって」
先生はしずかにそうつぶやくと、どこか遠くを見つめていた視線は俺を見据えた。
「結婚相手どころか、俺に紹介してくれる男は生涯一人なんだろうな、ふみは」
その言葉は、この世の贅を尽くしたと同程度の価値があると思えた。泣きそうだ。
「……努力します」
それを我慢すべく耐えていれば、久遠寺先生はため息を落とした。
「灰慈。お前はゆるいんだよ全体的に。覇気がない。筋トレしろ筋トレ」
「せんせー、筋トレしたら覇気が出るんですかー」
「はい。着いたので早く降りろ、さっさと降りろ、早く!」
そう言いながらもこの人はきっと、俺を見捨てないのだろう。文句を言いながらも、ずっと。



