相変わらず高校教師は多忙らしい久遠寺先生は、俺をみるとすぐに顔を顰め、それからにこやかに微笑んだ。
「おー、雪平くんこんな所でどうした。家まで送ってやろうか?いますぐに」
久遠寺先生の俺への嫌悪感は、娘を想うがゆえだろう。
「じゃあ、お願いします」
「おいおい、そこは遠慮しますって、いつも通り拒否ろうか」
「え?乗せてってくれないんですか?」
「気持ち悪」
「今日のひなご飯なんだった?」と言いながら久遠寺先生は車庫に向かうので「食ってないので知りません」と言いながら俺も後を追いかける。「腹減ってんだよ、俺は」と、久遠寺先生は車庫の門を操作し、停車したばかりであろう黒のワゴンカーのライトを再び光らせると運転席に乗り込む。俺も遅れて助手席に乗り込んだ。
「今日は多分ビーフシチューなんだよ。昨日、パイ生地寝かせてたから、そういう時はビーフシチューって決まってんだよ家は」
「美味そうっすね」
「お前が嫌いな人参だらけのビーフシチューだよ」
「あー、ふみが作るなら食いますよ」
「だろうな。で?」
久遠寺先生は声が良い。嫌でも授業の声に耳を傾けたくなるし、逆にそのせいで眠くなる時もあった。



