たまに声をかけられた。「久遠寺、それだあれ?」とか「あれ?そんな先輩いたっけ?」とか。てきとうに話を合わせていた。
「ふみ先輩、彼氏?」
と、後輩からそんなふうに声をかけられたので「ううん、すきなひと!」とアピールした。以前話したと思うけれど、わたしは自分の趣味や好きなことを布教したいタイプだ。
「わかった、久遠寺先生のライバルだ」
「ライバルです」
灰慈くんが答える。けれど、灰慈くんはまちがいなくわたしの物語のヒーローだ。登場人物の立ち位置は変わっても、家族と灰慈くんだけはずっとずっと変わらない。
「ライバルらしく、手でもつなごうか?」
「え!」
「改めて言うと面白いな。でも今日限定で先輩だし、繋ごう」
「よ、よろしくお願いします!」
学生気分で手を繋いだ。けれど、どう考えても灰慈くんなので、緊張から自分の手汗がすごくてこまった。



