「灰慈くん」
こっそりと名前をつむぐと、灰慈くんがわたしに気付く。チハにいは振り向くと「あ、浮気者だ」なんて揶揄うから、むっと頬に怒りを溜める。
「チハにいは黙って」
「こわー、灰慈くんこいつ猫かぶってるって」
「可愛い可愛い」
灰慈くんはやさしけれど、チハにいはやっぱり意地悪だ。けれど、まるでタイミングを見計らったかのように「じゃあね、灰慈くん」と言ってすぐに家の中へ入ってしまった。
引き止めてくれてた?
まさかね、用事があったんだよね、灰慈くんに。
「あの……浮気じゃないよ?一緒に、りんご飴食べに行っただけ」
けれども、それよりも。チハにいの言葉が嘘だって証明しなければならないので、先に弁明をした。けれど、もしもりんご飴を食べに行く、が浮気になるなら、わたしは確かに浮気者かもしれない。
「い、今さらだけど……浮気ってどのラインからが浮気?」
「通話に別の男が出たら浮気」
さらっと数時間前の出来事をなぞられた。なんてことだ。わたしはあの時点で浮気確定だったらしい。
「ふみだって、俺の電話に別の女が出たら嫌でしょ」
分かりやすい説明をもらった。たしかに嫌だ。想像しただけで、胸が張り裂けるくらいいたくなる。



