やさしい人。大事にしたい人。
好きだけで完結する恋愛なんてあるのだろうか。おそらくほとんど無いだろう。その度に大きな壁が立ちはだかって、わたし一人だと打ちのめされそうになるけれど、そんなわたしを支えてくれる人がいる。それもひとりじゃなく、何人も。
「ちなみに千暖が下で灰慈くんと話してるけど、千暖のことだからふみが仮病だって教えちゃってるかもなあ。どうする?呼ぶ?」
ママの声は、殊更やさしい音色で言葉をつむぐ。けれど、わたしは自分の意思で「ううん」と首を振った。
「行ってくる」
「うん。パパはまかせて」
この上ない協力者だ。スリッパの音を響かせながらリビングに向かった。ポコが玄関への扉に向かっておしりをふりふりとさせている。好きな人がすぐ近くにいることをこの子は知っているのだ。
ポコにごめんね、を言ってリビングを抜けると、玄関の扉をほんの少しだけ開ける。ほんとうに、チハにいと灰慈くんが話していた。灰慈くんはラフなパーカーにスエット姿だ。帰宅して、着替えて、わざわざ来てくれたんだって思うと涙腺が刺激された。



