「例えばふみはどんなことをされたいんだっけ」
遠回りして家の近くにたどり着くと、誘惑上手な灰慈くんはわたしを唆す。
「そんなこと言っていいんですか!?」
「今の俺は悪い人じゃないからね」
悪い人改め、とても良い灰慈くんらしい。住民票を置いた助手席で短く悩む。しかし、いい案がまったく浮かばない。
「じゃあ……頭ぽんぽんされたい」
「子ども」
「いいもん。灰慈くんは?」
「目が合ったらキス」
「あはは、そうなんだ」
灰慈くんもわたしと同じく子どもなので楽しくなる。
「つか今日飲み会なんだよ」
子どもなんて言ってごめんなさい。やっぱり灰慈くん大人だ。けれど、そんな灰慈くんが飲み会嫌いだってこともわたしは知っている。
「飲み会、がんばって!」
「ん。ふみが起きてる時間までには帰りたいわー……」
「わたし寝るの早いよ?」
「うん。まあ最悪、それまでに終わらなかったら、ふみに電話するために帰りますって言う」
「わたし、灰慈くんの知り合いに怒られない?」
「怒られるのはやだよな」
「うーん、でも灰慈くんのためなら、怒られるのもたまにはいいかなあ」
久遠寺ふみという人間は、理由が灰慈くんであれば何にだってなれる、そういう仕組みになっているのだ。



