メルティ・エモーション



「今日りるちゃんに、灰慈くんからだったら壺買いそうだよねって言われたの」

「確かに、買いそう」

さすが灰慈くんはわたしのことをよくお分かりだ。

「ね。買う自信があるもん」

二人、ここまで意見がそろうことはそうそう無い。今度は灰慈くんが気持ちよさそうに笑った。隣を見遣ると、灰慈くんの尖った喉仏が上下している。信号待ちの交差点で、灰慈くんと目が合う。

「ふみ、知ってる?恋人同士って、目が合ったらキスしなきゃいけない」

「そうなの!?危険だね!?」

……あ。
目が合っちゃった。

どうしてだろう。恋人同士じゃないのに、まるで間接的に予告されたようで、かあっと顔が赤くなる。灰慈くんの視線が逸れる。

「嘘」

さらりと躱され、肩を落とす。

「なあんだ、嘘かあ」

ほっとしたような、残念なような、複雑な気持ちを抱くのもまた必然。

「ふみ、俺が悪い人だったらどうすんの」

灰慈くんは挨拶のようにたらればを語るので、わたしもその仮定をなぞる。結果はどうやっても変わらない。

「うーん、悪いままの灰慈くんのことも好きになると思うなあ」

「悪い灰慈くんは好きになっちゃ駄目だよ」

「灰慈くんが悪い人だった時、あったの?」

「まあ、あったかもね」

「例えば、いつの灰慈くんは悪い灰慈くんだったの?」

「いつだろうね」

これはきっと教えてくれないって幼なじみはわかる。だから、悪いひと認定しちゃうんだ。