メルティ・エモーション


「あの、できればでいいから、それは等価交換がいいな」

けれど、わたしも恋する乙女。貢がれたいけれど、貢ぎたい。それが同じものだとより良い。

「無理じゃん、どっちにしろ、俺の方が多い」

ハンドルを持つ灰慈くんはやっぱり大人である。子どもは納得しない。なぜなら、子どもだから。

「やだよ。だって生まれた時から、もう、灰慈くんの方が全部さきだから……」

「だめなの?」

言いかけた途中、灰慈くんはハンドルにこてんと凭れ、あざとく見上げた。ずきゅん!と、心臓を撃ち抜かれる恋心。撃ち抜かれてヒビでも入ったら大変だけど、修復可能なのが恋心というものだ。

「いいです!!お願いします!!!」

「うん。素直でよろしい」

灰慈くんにはよわく、心臓はたくましく。

「灰慈くん、確認していい?」

もらったドーナツを大事そうに両手で持って、灰慈くんを見上げる。前を向いた状態で、灰慈くんは「どうぞ」とだけ言った。

「これ、デート?」

「デートじゃないの」

「デートだった」

「デートでした」

「じゃあ──」

わたし、灰慈くんの、彼女になっていい?

言おうとしたけれど、言ったら、何かが終わっちゃう気がして、ぐっと堪えた。灰慈くんは不思議そうな顔をしたけれど、それが正解だって思ったの。