だって、灰慈くんになら手玉にとられたいし、わたしの方が貢ぎたい。
そんなことを思い浮かべながら、灰慈くんと待ち合わせの場所へ向かった。すでに待ってくれていた灰慈くんにありがとうを伝えて灰慈くんの車に乗ると、朝と同じ甘い匂いがした。
「ふみ、これあげる」
乗るとすぐに、灰慈くんはわたしに、貰ったというチョコレートドーナツをくれた。人気店の人気ドーナツだ。
うれしい!けれど、みつがれちゃったあ!!!
「灰慈くん、わたしが灰慈くんに貢ぎたいな」
ハンドルをもつその横顔に意気込みをぶつける。
「気持ちだけ受け取ります」
灰慈くんは乗り気じゃない時によくつかう、大人な反応をみせた。
「じゃあ、灰慈くんならわたしに何を貢いでくれる?」
「ふみに?」
「うん、わたしに」
ドーナツの他だったら、シュークリームか、それともアイスかなあ……。
「時間」
「え?」
「俺の休み、全部ふみにあげる」
幼いわたしは目に見える物を思い描いていたのに、灰慈くんは目に見えない、けれども何にも変えられないそれをわたしに差し出そうとしてくれる。



