メルティ・エモーション


しっかり目覚めた灰慈くんは、そのまま洗顔に行くので洗面所までついていった。

「ふみも洗う?」

「いまは遠慮します」

「じゃあ今度な」

灰慈くんはゆるく微笑む。丁寧にお断りしたのに、まるで次が確約したみたいで顔を赤くさせた。

近頃、わたしが赤くなって、喋れなくなって、終わってしまう。

少し前まで普通に出来ていたことが出来なくなっている。けれど、灰慈くんは何も言わない。やめろとも、どうしたの、とも。

私は初めての症状だけど、灰慈くんは大人だからこの症状に心当たりがあるのか、それとも、見覚えがある?

見上げる。見るとさっきの体温を思い出して、恥ずかしくて、視線を下げる。灰慈くんが笑った気がした。直接見てないので分からないけれど、多分、笑った。

よろよろと正面を向けば、鏡の中で目が合う。これもこれではずかしいので、背中に隠れて、ちらっと鏡を覗こうとした。

「さっきから、一体なんの遊び?」

すると、灰慈くんがわたしを覗き込む方が先で、至近距離で目が合った。

「遊んでないよ!?遊んでない」

「そう?」

「(全部見られてたのかな……)」

わたしの王子さまは、油断も隙もないらしい。