「灰慈くんならきっと大丈夫だよ。わたし、パパとママの娘だから、男を見る目はあると思うんだ〜」
嬉しくなった。パパの自信がそうであるように、わたしもまた、家族がなによりの自慢であることは自信を持って言える。
「それはそれでムカつくんだよ。あいつ、18歳になった途端、さら〜っとふみのこと攫いそうで」
パパの目がげんなりと色を失ってゆくのを見た。そんなことがあるのかと想像してみては、灰慈くんにもしも甘いことばで誘惑されたとすれば、わたしは簡単に唆されてしまう自覚がある。もしも、本当にそんなことがあればの話だ。
「灰慈だとしても騙されるなよ。高校の頃のあいつ、高校全体を傾けてたからな」
「知らないもん、高校生の灰慈くんなんて10年前で、もう、遠い昔のことだもん」
「ふみにとって昔のことかもしれねえけど、大人にとって10年は昨日と相違無いよ」
灰慈くんよりもずっと大人なパパは、わたしと物差しがずいぶん違うみたい。パパの感覚に同意しかねていると「じゃあ、パパと一緒に行こうか」なんてパパは車に親指を向けるので、本来の目的を忘れそうになった。
「いってらっしゃい、パパ」
「気をつけてな」
パパと別れて、いつもとはちがう道のりを歩き出した。



