貴重な一時間だ。何ができるかな?スポーツ施設で遊ぶのも楽しかったし、スポーツ観戦もいいなあ……!なんて、わたしの脳内はすぐに、隣にいる灰慈くんのことでいっぱいになる。わたしの興味は灰慈くんにほぼ全て捧げているからだ。
「これ、灰慈くんにあげる。どうぞ」
妄想は意図的ストップさせた。灰慈くん用のカフェラテを思い出したのだ。灰慈くんはすこし驚いたように眉間に皺を寄せた。カフェラテ、好きだったよね?と、不安に思っていれば、灰慈くんはすぐに表情を柔らかくした。
「ありがと。ふみは何頼んだの?」
「わたしはりんごスムージーだよ」
「ひと口飲ませて」
「うん」
何気なしに灰慈くんへスムージーを渡すと、薄い唇がストローを食む。うあぁ、そのストローになりたい……!と、ふしだらな感情を何とか抑えた。
「甘」
灰慈くんの表情がゆがむ。普段の甘やかな雰囲気の灰慈くんももちろん好きだけど、不満気な灰慈くんも当たり前に好きだ。
「灰慈くんのも、飲ませて!」
「苦いよ」
渡されたコーヒーを受け取り、口をつける。クリーミーだけど、本当にそこに甘さはなくって、ただ苦い。
「にが」
べ、と舌を出せば、灰慈くんは楽しそうにした。わたしが余程子どもに見えるらしい。苦さが美味しさの証明になるのが大人なら、わたしはまだ大人じゃなくていいとさえ思う。



