ずるいよ、灰慈くん。甘すぎるよ。元気じゃないなんてうそ。とっても普通。わたしが元気がなくたって、ドキドキしていたって、灰慈くんはいつも余裕で、こうやって簡単に距離をつめてくる。
「さびしそうには見えないよ」
「そ?」
「平気そうだった、いつも。今も」
ちょっとだけ、ムッとして。スンっと鼻を啜ると、スクールバッグの紐をぎゅうっと握りしめた。灰慈くんの体温に包み込まれた右手が熱い。
「自分の本音を一切合切飲み込んで、それでも笑えるのが大人だよ」
灰慈くんは簡単そうに説明するけれど、わたしよりも、灰慈くんの手のぬくもりの方が熱く感じられた。
「隠せるの?」
「隠せるよ」
フラットなトーンで返された大人の答え。まるで模範解答のようだ。わたしが追いつけない、若しくは、追える?とでも言わんばかりの声色で“普通”に返事をした灰慈くんは、「隠したままの方が良かったかな」と、わたしにしか聞こえないボリュームの低音でささやくと、「本音」と、甘ったるい声で付け足した。
ああ、もう、何も言えなくて黙り込んだ。



