話したいけど、話しかけられない。おはよう、の“お”がでてこない。そんな不思議な状態に陥っても、やっぱりわたしに気づいて欲しい。
どうしよう、もう時間が無い。
うんと悩んで、それから灰慈くんの背後に近寄る。それから、灰慈くんのスーツの裾をくんと引っ張った。気づいた彼が振り向く。
「ん?おはよ」
「…………おはよ」
「どうした、元気ないな」
灰慈くんはすぐにわたしを見透かす。元気がないつもりはないのに、態度に出てしまったのだろう。
「……そんなことないよ」
「そんなことあるよ」
「ないよ。すっごく元気だもん。灰慈くんは元気?」
灰慈くんを覗き込む。その目は静かにわたしから不意に逸れた。
「元気じゃない」
「そうなの?どうして?」
わたしに戻ってきた視線。それとほぼ同時に、裾を掴んでいたわたしの片手を、灰慈くんは攫うように繋いだ。
「ふみと喋れなくて、灰慈くん、さびしかったな」
「……!」
灰慈くんは本日も大変な人たらし、いや、ふみたらしである。



