メルティ・エモーション


「俺は誰彼構わず時間なんか掛けねえよ。……それくらい、分かれ」

灰慈くんの声が、少しだけ不安げに揺れている。今までこんなこと、あっただろうか。

いつも自信たっぷりに笑っていた彼の瞳が、今だけはほんの少し怯えて見えた。それほどまでに、大事そうに紡がれた言葉だった。

「でも、ふみが俺の為に“今”を犠牲にして欲しくないんだよ」

その言葉に対して、うん、分かった。なんて、簡単な一言で頷くだけでは足りない気がした。

きっと、灰慈くんの本気を、軽く受け流したくなかった。

「犠牲になんてしてないよ?だってわたしは、何度生まれ変わっても同じ人を好きになる。これは絶対!灰慈くんが心配してもわたしは勝手に青春するよ?」

そう言って、わたしは灰慈くんの手に触れた。骨ばった大きな手は、片手では包みきれないほどで、でもその大きさが、どうしようもなく安心した。この手が、いつもわたしを守ってくれていたんだ。小さなわたしの世界を覆う、傘のような存在。

「でも、それでも、わたしの青春に花を添えてくれるのは灰慈くんだったらいいなって思ってるだけだよ」

言い切って、へらっと微笑んだ。その瞬間、胸の奥で小さな痛みと、言葉にできない幸せがいっしょに弾けた。