メルティ・エモーション


静かな声が鼓膜を揺らして、わたしの脳に浸潤する。

「特別扱い?」

その言葉をなぞると「そうだよ」と、灰慈くんはすぐに頷いた。

「いつもと変わらないよ?」

「いつもと変わらないよ」

今度は灰慈くんがわたしをなぞった。まるで当たり前のように、息をするように、わたしを甘やかすのが灰慈くんにとって日常だ。

考えようとしなかったのかもしれない。あるいは、勝手に決めつけていた。ノートの隅に、同じ名前ばかり書いていたのに。トークルームを開けば真っ先にアイコンを探すように。ただ、大人と子どもの境界線の上で、同じ呼吸をしていたのに。

「いつも、子ども扱いじゃないの?」

「いつも、特別扱いってこと」

「本当に?」

「ふみだから、だよ」

灰慈くんはわたしの名前を呼ぶたび、声が少しだけ甘くなる。そんなことも、自分では気付かないまま。

「ちゃんと考えてるよ、ふみのこと」

いつの間にか下まぶたに溜まっていた涙がこぼれ落ちた。けれどもどうして泣いているのか、最初はわからなかった。無意識が先に涙を選んで、心があとから理由を探した。