メルティ・エモーション


灰慈くんを見た瞬間、疲れが一気に吹き飛んだ。疲れた時にはクエン酸?いいえ、灰慈くんだ。

すっごく嫌な顔をされている自覚はあるけれど、会えた嬉しさの方が勝つのがわたしだ。

「うん!会い来たよ」

「……」

ドアを片手で支える灰慈くんのその表情がさらに無を極めた。さすがに謝罪が必要らしい。

「怒ってる?」

「怒ってる」

「……でもね、わたし……」

「俺が会いに行くのに、迎えにも行かせてくれねえの」

灰慈くんは、むっすりとしたジト目でこちらを見遣った。その視線の奥に、かすかな違和感が混ざっている気がした。

「え……と、灰慈くん、それって」

「……なに」

怒ってるんじゃなくて、もしかして、拗ねてる?

そんな自意識過剰に陥っていれば、灰慈くんに覗き込まれた。至近距離で目が合うと、必然的に鼓動が弾む。

「俺は止めたからな」

その視線が、わたしの奥を射抜く。どくん、と心臓が跳ねた瞬間、灰慈くんの指がわたしの手首を掴み、ためらいもなく、攫うように部屋の中へと導いた。