「久遠寺が言うように、灰慈クンは大人だよな。俺の意見も尊重してくれるくらい大人」
青葉くんが語る灰慈くんを、残念ながらわたしは知らない。けれど、それだけでも、灰慈くんの素敵さが青葉くんに伝わったようで嬉しくなる。
「灰慈くん、素敵でしょ。好きになった?」
「嫌い」
しかし、青葉くんにとって"素敵"イコール"好き"ではないらしく、わたしの望み通りとはならなかった。青葉くんは近くの生垣に腰を落とし、こう続けた。
「勝ったけど、勝たせてもらったけど、それはピュロスの勝利ってやつで、実際は負けだった」
「……負け?」
いつ、勝負の話になったのだろう。
青葉くんと灰慈くんは勝負の話になって、灰慈くんがわざと負けたってこと、そう解釈する。
「久遠寺、今一番にしたいことはなに?」
青葉くんの双眸がわたしを捉える。すっきりとしたまなざしが、わたしの内側を覗く。
「……灰慈くんに、会いたい」
感情を吐き出すと、下まぶたに涙が溜まった。
いくら頭で理解しようとしても、心は追いつかない、わたしがこどもである、何よりの証拠だ。
「じゃあ、会いに行きなよ」
「……でも、困らせる」
「困らせて良いんじゃないの?」
……そうなの?
けれど、わたしよりも灰慈くんのことが分かるらしい青葉くんの言葉は、何故か信用出来た。
人差し指で涙を拭って、笑顔を作った。
「ありがとう、青葉くん」
そうして人がざわめく花火大会の会場を駆け抜けた。



