「……ん」
重みがあって少し掠れた声。幼なじみで、よく知る彼の初めて見る一面に、飽きずにときめく簡単な恋心。
「あの、」
今、何時?と聞こうとしたら、それよりも前に灰慈くんの両腕がお布団の中でわたしを抱きしめる方が早かった。もう一度言う。灰慈くんに抱きしめられたのだ。
一体、なぜ。何が起きたのか分からないわたしの脳内に「えっ、えっ?」と、疑問符がたくさん飛び交う。
暑いし、灰慈くんの香りが近くてどうにかなりそう。
布団の中の温度が一気に上昇する。どくん、どくん、と、鼓動がわたしを囃し立てる。落ち着けと言いたい。灰慈くんが離してくれないと、落ち着けるわけがない。
「灰慈、くん?あの、え?」
「仕返し」
「し、返し?え?ええ?」
何を言っているのか。
灰慈くん、もしかして夢でも見てる?って言いたい。ていうか、そうに決まってる。寝ぼけてるんだ。
待って、寝ぼけた寝起きの灰慈くんは、抱きしめる癖があるってこと??
灰慈くんメモにしっかりと記載し、身動きの取れない、さらに言えば灰慈くんしか見えないわたしは「今、なんじ?」と、時間の確認をすることにした。
「んー、6時」
柔らかな声が時間を紡ぐ。良かった、そんなに寝過ごさ無かったんだ。
ひと安心する。抱きしめられていることにも少々慣れてきたわたしは、腕の中からひょこっと顔を出して間近で灰慈くんを見つめた。



