メルティ・エモーション

…というのはわたしの過信で、結果的に十球中二回しか打てなかった。100点は届かないとしても、80点は叩き出したかった。

「うー……全然駄目だった……」

肩を落としてバッターボックスから出る。好きになって貰えるようにって言った手前、悔しさは格別だ。

「ゼロが2に増えただけで凄いことじゃん」

「そうだけどさ」

大人な灰慈くんは客観的に言えるけれど、わたしは子どもなのでこんな時は普通に拗ねる。

楽しようとせずに、険しい道を進みなさいってことだよね。

拗ねて、すぐに元に戻る。思いのほか簡単に元通りになったのは、灰慈くんが近くに居てくれたことが効果としては大きい。

意気込んでいると、何故か灰慈くんがバッターボックスに入ってしまう。

……あれ?終わったはずだよね?

「灰慈くんはもうやらないんじゃなかったの?」

袖口をたくし上げた灰慈くんがバットを振り翳した。それとほぼ同時に、気持ちの良い音が鳴り響いた。

「ん、ふみのリベンジ」

「!」

なんと、王子さま自らわたしが空振りした分を取り戻してくれるらしい。

灰慈くん、そんなことしたらわたし調子に乗っちゃうよ?

灰慈くんも、わたしと結婚したいんじゃないのかな?って、都合よく受け取っちゃうよ?

邪な考えを持つ間、灰慈くんは当たり前に十発中九回ヒットを叩き出した。
プラス10点の加算ってことだ。

「わたし、将来灰慈くんと結婚する!」

「はい。そうでした」

この流れも最早決定事項である。