「灰慈くんはもう打たないの?」
「俺はもう体力ないから、観戦だけでいいや」
観戦、というのはわたしのことだろうか。灰慈くんが見てくれるので俄然やる気が燃え上がる。言われた通りに構えていれば、球速80キロがわたし目掛けてびゅん!と飛んでくる。もうすこし手加減してくださいと言えば、これ以上どう手加減しろと。と、灰慈くんは笑った。
灰慈くんが軽々と打つから舐めていた。灰慈くんは130キロの球を打っているらしい。
いつ飛んでくるかも分からない、ましてやこんな豪速球を灰慈くんは軽々と打ち返していると来た。コントロールの天才じゃないの?少しでもコントロールが乱れたらわたしの告白をOKしてくれないかな、なんて、贔屓目のわたしは灰慈くんを拝む。
それと、わたしが灰慈くんの歳になる頃には、140キロを打てるようにならなければと一人決意する。
「(脇を締めて……!)」
何度か見送って大きく振りかぶると、キン!と鈍い振動がバットを伝った。当たったけれど、掠っただけ。思わずきゃあと叫んでしまう。
「みた?灰慈くん!当たったよ!」
「すごいすごい。タイミングは合ってるから、次は打てるよ」
「よーし、打てた数だけ、灰慈くんがあたしのこと好きになってくれると思って狙おう」
「頑張って」
王子さまの応援とハイタッチを交わしたので今度はホームランになるはずだ。



