メルティ・エモーション


ポンッと思い切り投げたボールは、リングに当たることも無く空を切った。

「あうっ……!!」

「惜しい」

「惜しくないよ、全然届いてないよ?」

「届いていたら入る軌道だったよ」

「本当に?」

「本当に。ふみは伸びしろがあるよ」

不思議だ。灰慈くんが言うと、本当にそうなると思える。

「それと、無理に難しいことをしなくても、例えば相手の邪魔をして道を作ったり、囮になれば攻め方も楽になったりするんだよ」

「そうなの?」

「うん。久遠寺先生、教えてくれなかった?」

「うん。パスとか、基礎ばっかり」

「戦略よりもスキンシップを取ったわけか」

灰慈くんは納得するけれど、わたしはそうではない。首を傾げると、「なんでもないよ」と、安心させるように灰慈くんはわたしを撫でた。

「初心者でも、幾らでも戦略はあるってこと」

灰慈くんだったら、わたしの不安を安心に変えてくれる。これはわたしの中に蓄積された、絶対的な信頼。