メルティ・エモーション


灰慈くんがやわらかくほほえむ。固くなったトゲがやわらかくなると、灰慈くんはわたしのほっぺたをむぎゅっと軽く摘んだ。

『仕返し』

頭の中に“はてな”の箱が現れる。開けても答えは入っていない。多分教科書にも載ってない。お兄ちゃんに聞いてみたほうが早いかもしれない。

『ふみは優しいな。俺の普通とは、大違い』

『普通?灰慈くんの普通って、なに?』

『知らなくていいよ』

ほっぺを摘んでいた灰慈くんがわたしの頭を撫でる。

『俺以外にはしないように』

灰慈くんはわたしの扱いが上手だ。それも、誰にも真似出来ないくらい、格段に上手。

俺以外には、ということは、灰慈くんにはしていいということだ。

『灰慈くんときすの練習する!』

『はは、先生に怒られるわ』

『学校じゃないから怒らないよ』

『学校よりも怒られるかも』

『そうかなー……パパ、怖い?』

『めっちゃ厳しいよ』

灰慈くんが脅す。確かに、ママが作ったご飯を『こんなの食べない』ってチカにいが言った時、パパすっごく怒ってた。

『それはやめた方がいいね』

あのパパは確かに怖かった。灰慈くんはあんな風に叱られてほしくない。

『ふみも少しずつ、俺から離れていくんだろうな』

おろおろとするわたしに、灰慈くんはすこし寂しげに微笑んだ。

『そんなことないよ、わたし、すきなものはずっと好き!』

自信を持って宣言すれば、灰慈くんは『ありがと』と頷いてくれた。