灰慈くんには秘密がある。眠っているとそれがよくわかる。
右眼のまぶた、二重の線上に、小さなほくろがあるの。目の上にお星様があるようで、わたしは大好きだ。
そのほくろをそっと撫でた。
お兄ちゃんが教えてくれた。恋人同士って、キスとかするんだって。
このお星様を今日のあの人も知っているのかな?
キスとか、してるのかな。
──やだな、
モヤモヤとしたそれらが胸のなかを埋めつくす。
わたしは子どもで、子どもはどうやっても恋愛対象にはなれない。
知ってる。どうやってもこの手はお星様に届かないって分かってる。だけど、わたしはいつも手繰り寄せようと足掻いてしまう。
お星様に手を伸ばした。灰慈くんの温度が伝わって、わたしの心臓もぽかぽかとした。頬にそっと口を口づけると、あんまりやわらかくてびっくりした。
幸せで胸がくすぐったくなって、でも、一瞬でそれは消える。
ふわふわとした物が、冷え固まって、ちくりとした痛みが残される。
芽生えたのは、小さな罪悪感だった。バイバイと手を振ってくれたあのおねえさんが頭に過ると、涙がぽろぽろとこぼれるのは、待ってくれなかった。
『……ふみ?』
あたしの嗚咽が灰慈くんの目覚ましとなった。悪いことを見破られた気がして、もっと涙が出たけれど、すぐに拭って『へへっ』と笑った。
『ふみ、どうしたの』
『ごめんね、キスしちゃった』
『どこに?』
『ほっぺた』
『……そう。ふみはなんで泣いてるの?』
『だって、灰慈くん寝てるのに。あのおねえさんがいるのに。いいよって言われてないのに』
自分が好きじゃない人にされたと考え始めると本当に気持ち悪くて、モヤモヤとしたものを吐き出したくなった。



