ようやく落ち着いてどっと疲れた。
力が入らず仁くんの胸の中に入る。
…また、迷惑をかけてしまった。
「…ごめんなさい」
「俺が悪い。対応が遅すぎた」
…違いますよ。私が昔の事なんて思い出さなければ良かっただけで…。
「千雪、深く考えるな。またなる」
「……は、い」
仁くんの手が頭を優しく撫でる。
さっきまでの不安はもう無い。
でも、どうしてかな?
ちょっとだけズキンと音がしてるのは。
「…仁くんは…優しいです、ね…」
今まで誰かにこんな事していたのかな。
私じゃない、別の女性に…。
ズキン、
少しだけ痛いのは、悲しいと思うのはどうしてかな。
「………普通だ」
「…それが出来るって凄い事です」
強くて、優しくて…何でも持ってる。私には誰かを守ることも、助けることも出来ないから。
「これから用事はあるのか?」
仁くんが言った。
用事…は、買い物と…。
あっ!買い物袋!
落としたことに気付き、顔を上げると、仁くんの手には私が落としたはずの袋。どうやら拾っていてくれたらしい。
「あ、ありがとうございます」
それを受け取った後で、その後の事を考えた。
買い物は終わって、次に行くつもりだったのは本屋さん。あとは…図書館ぐらい。
「本屋さんと図書館に行こうかと…」
「…昴にでも会いに行く気か?」
昴くんに?
首を左右に振る。
「新しい本を借りてこようかと思ったんです。昴くんとは会う約束もしてませんから…、」
「約束があれば行くんだな」
「え?…や、約束でしたら…、」
仁くんの眉間にしわが寄る。
何か気に触るような事したのかな…。
だからそんな嫌そうな顔…するんですか?
怖くなって少しだけ距離を取ろうとするが、
「きゃっ!?」
抱き寄せられた。
ドッ、ドッ、と心臓が鳴る。
「…じ、仁くんは用事は……、」
「…ある」
「そ、それなら早く…、」
「今、用事が出来た」
…いま、とは?
仁くんは運転手に車を出すように言った。
───────私が乗ったままなのに。


