白雪姫は寵愛されている【完】



────でも少し、様子が違う。


おろおろとしていて、昨日の八神先輩とは全く違う気がした。

怖い、とは感じない。
練習…ってもしかして。


難波先輩に言われてた事ですか?


それなら確かに。
昨日と比べて…。



「こ、怖くないです」


「ほ、ほんとか…!」



う、うれしそう…。



パァっと一気に明るくなった。だけどすぐに咳ばらいをして、無表情になる。一瞬でも明るくなった八神先輩に、少しでも可愛いと思ってしまっただなんて。言ったら怒られてしまいそう。



「携帯」


「は、はい…」



携帯を渡すと慣れた手つきで登録していた。その様子も嬉しそうな顔してる気がする。



…何にもなかったようにしてたけど。
子供みたいに喜んでた。



────…意外、ですね。

無口で不愛想と聞いたけれど。全然違う。



「LINEはやってないのか?」


「え?…えっと、苦手です…」


「慣れるとそっちの方が良くなる」


「な、慣れますか?でも、私苦味があるものは苦手で…」



前に一度食べたライム。

外食した時に付いてたものだけど…、
少し苦味があって苦手なんですよね…。




「……は?」





────沈黙。




「ブッ!!!!」



それが破られたのは、運転手の笑い声だった。それに釣られるように、八神先輩も声を抑えて笑い出す。

ビクリと大きく身体が揺れたのは言うまでも無い。



「俺が言ったのは、LINE。メッセージアプリの事な」

「あ…、ら、らいんでしたか…」



わ…笑われてしまった。

俯いた私に声を掛けてきたのは運転手。


「すみません。突然笑ってしまって」

「あ…いえ、私が…勘違いしてしまったので…」


スマホなんて滅多に使わないから…。
咄嗟にアプリ名なんて出てこないんです。


アプリの名前は知っていたけど、一度もダウンロードしたことがない。


何かやるときは必ず朔也くんにやり方を聞いていたし…それに友達もいないから、メッセージアプリなんて使わない。



連絡帳には朔也くんしかいないもの。