白雪姫は寵愛されている【完】

「す…昴くん…」

『っ!?千雪さん?…大まかな話は慶から聞きました。すぐそちらに行き麒麟と交渉したいところですが…ここからではどうしても三十分は掛かると思います。その間に来る可能性が高い。今すぐそこから千雪さんを連れて逃げてください』

「ま…待ってください…仁くんは、」

「分かった。すぐに離れる」

「っ!仁くん!?」


奇跡だと言われるほどの大怪我をしている。

点滴を引き抜き、朱雀の特攻服を着る。
電話口では昴くんが「急いで向かう」と言って切れた。


「待ってください!安静にしてろって…お医者さんが!」


血の付いた特攻服。少し青ざめた顔。手を握り何度も左右に首を振るが、仁くんは大丈夫と言うばかり。

……美琴さんが朔也くんに言ったのかな。私がここに居るって。変な欲を出したから、また私は…仁くんに迷惑を掛けているんだ。


「私…帰ります…」


きっと私が帰れば、全て丸く収まるんだ。

仁くんは安静に病院生活が送れて、朱雀の人達はいつも通りの生活が送れて…私が全て我慢すれば全部、全部上手くいくはずなんだ。


「仁くんは…ここに居てください。私外で朔也くん達を待っていますから」

「千雪、」


頬を包む手。俯いていた私の顔が上がる。
涙を堪えていた私の顔がバレてしまう。


「俺は千雪の傍から離れる気はない。悪いな。その話聞いてやれない」


抱き寄せられ涙が溢れる。
愛おしい人の匂い。


「千雪一緒に来てくれるか?」

「っっ…はい…」


あなたの傍から離れたくないのは私も同じ。