朔也くんは何を言っているのだろう。
だけど──────、
朔也くんはずっと私の為に恐ろしい事ばかりをして来た。
「千雪ちゃんの髪はお母さん譲りで綺麗だねぇ」
叔父がよく髪を乾かしてくれた。お風呂上りに膝の上に乗るようにと手招きされて。丁寧にくしでとかしてくれながら。
「ありがとう叔父さん。でも私も自分で乾かせるよ?」
「うん?駄目だよ、駄目。千雪ちゃんは髪が長いからねぇ。ちゃんと叔父さんが乾かしてあげるからねぇ」
今思えば、どうして小学校高学年になっても叔父は、私を膝の上に乗せたのだろうか。
夏は短いキャミソールだけしか着れなかったのだろうか。
「ああ。本当に千雪ちゃんはかわいいねぇ」
どうして叔父は私の肩や腰を触りながら髪を乾かしていたのだろうか。
「白雪!…欲しがっていたペン見つけたよ」
「朔也くんっ!」
息を切らしながら毎日家に帰って来ていた朔也くん。
毎回私の欲しいものを買ってきてくれていた。
朔也くんを見つけると、私は叔父から直ぐに離れ朔也くんの元へと向かっていた。
その時叔父はよく舌打ちをしていなかっただろうか?
叔父は朔也くんを見るととても嫌な顔をしていなかっただろうか?
「おかえりなさい!」
抱き着く私を抱っこしてくれた時、叔父は…朔也くんにどんな顔を向けていたのだろうか。
「っ…ただいま。白雪」
朔也くんは毎日どうして私を抱っこする時、顔をしかめていたのか…考えた事はあっただろうか。
もしそれが──────、
叔父に虐待されていた事での痛みだったなら。
叔母に夜の相手を頼まれての痛みだったのなら。
私はどうして何も気づかなかったのだろうか。


