「ああ」
小さな声に反応したのは仁くんだった。
き…りん?
そんな、だって。まさか…朔也くんが…?
──────ううん。
本当は分かっていた。
でも分からないふりをしていた。
あの日、朔也くんの携帯の中身を見た時から。
ずっとそうじゃないかと思いながら過ごしてきた。
だから私は…、
仁くん達に聞けなかったんだ。
「何しに来た」
「言ってただろ?白雪…いや、千雪を返してもらいに来たんだよ」
玄武の総長が言っていた。”さっさとこの女を麒麟に渡せ。”それは…朔也くんが私を探していたと言う事だ。
「返す?…渡せの間違いじゃないのか?」
朔也くんはきょとんとした。
だけどすぐに大声で笑いだす。
「あー…、白雪、俺の携帯見たんじゃなかったの?言わなかったんだぁ?偉いね、後でご褒美あげないとだなぁ」
やっぱり…見たの、知ってたんだ。
仁くんを掴む手が更に強くなる。
「千雪、どういうことだ」
「…さ、さくやくんは…私の……」
「好きな人、だろ?」
─────────えっ、?
「それとも、愛してる人かな?」
「な、にを言っているの…?」
朔也くんの目が、笑ってない。
私の知らない人みたい…。
震える体を抑えてくれたのは仁くんだった。
優しく握られた手に落ち着いた。
「後で聞く。まずは逃げるぞ」
「は、はい…」
握り返した。
「白雪おいで。そんな奴の言う事、聞いちゃいけないよ」
両手を広げ、笑っている。
だけど怖くて見て居られない。
目が一切笑ってない、その笑顔が怖くて仕方ない。
仁くんの腕にしがみつき、顔を逸らす。
「白雪、その男から離れろ」
知らない…。私の知ってる朔也くんじゃない。
殺気を出して無表情で言う彼が怖い。
「────────俺は忠告したからな?」
……さく、やくん?


