……いた、本当に。
池の前の手摺に寄り掛かっていた。
息が切れ、胸が痛い。
走ってきたから?
…ううん、きっと違います。
「仁くん!」
─────────彼に会えたから。
私の声に吃驚した仁くんが振り返った。
その手にはタバコ。
慌てた様子で、タバコを携帯灰皿に押し付けた。
「あ、あの…」
いざ顔を合わせると、言いたいことが出てこない。
たった一言なのに。
喉で引っかかって…。
「…千雪、悪い」
「……え?」
突然の言葉に思わず動きが止まった。
もしかして…他に好きな人が出来た、とかですか?
それとも、私に興味が無くなったとか…?
「今タバコ臭いから来ない方がいい」
思ってたことと別の回答。
…び、びっくりしました。
てっきりもう飽きてしまったのかと。
「わ、わたし、気にしませんので…えっと、その…」
心臓が聞こえちゃうんじゃないかと思うぐらい鳴っていて。本当は恥ずかしくて、逃げ出したくて仕方ない。
それでも勇気を振り絞る。
「そ…傍に…、隣に行っても、いいですか…?」
熱い。体が熱くて溶けてしまいそう。
仁くんは驚きながらも頷いてくれた。
一歩ずれ、右側が開いた。
ドキドキしながら、隣に移動した。


